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朱氏頭皮針

序文

 朱氏頭皮針はまたの名を頭穴透刺療法ともいい,頭部有髪部位にある特定の経穴透刺治療帯に針を刺すことによって全身の疾病を治療する専門療法のひとつである。いわゆる微刺療法〔特定の局所に刺針して全身の疾患を治療する刺針法〕の範疇に属している。
 この治療法は著者が中国伝統医学の理論をもとに,臓腑・経絡学説を基礎として,長期にわたる臨床実践と万を数える症例の治療経験を経てそれらを総括して作り上げたものである。
 著者は頭部有髪部位の経絡・経穴の分布と全身の肢体・臓腑・五官七竅とのあいだにある密接な関係に基づいて経穴透刺治療帯を確定した。また伝統的な刺針手法と『内経』にみえる手法の基礎の上に,「頭部の経穴には浅刺,透刺を行うべし」という原則を結びつけ,頭穴の透刺に独特な操作法を編み出して,用いている。これが「抽気法」と「進気法」である。さらに各病症に応じて適切な導引法,吐納法などを組み合わせ患者に行わせることで,ほぼ完璧な治療法となり,疾病の予防と治療という目的にかなうものとなった。こうして独自の性格を備えた「朱氏頭皮針」が形成されたのである。
 本治療法は適応範囲が広く,安全かつ有効で,しかも効果が早くて確実に現れるにもかかわらず副作用がないのを特徴とする。治療帯はかなり覚えやすいし,刺針及び操作は時間や場所,気候,環境,さらに体位による影響を受けない。また重篤症,急性症,マヒ,疼痛症に対して著効が現れるが,臨床所見に悪影響を与えることがないので,患者を危険な状態から救って延命の手助けをすることができる。このため医師と患者から非常に歓迎されている。つまりこの治療法は,中国医薬学の宝庫のなかの貴重な遺産のひとつであるとともに,従来の針灸医術には登場しなかったまったく新しい創造ということができると考えている。
 本書の内容は大きく総論と各論の二つによって構成されている。まず総論では頭皮針療法の起源とその発展について簡単に述べたあと,朱氏頭皮針の治療帯の位置とその主治および臨床治療を説明する。さらに治療帯と伝統的な経穴との関係,また朱氏頭皮針法の基礎についても述べる。各論では特に急性症と系統別疾患の治療を紹介する。最後に症例を付して参考に供することにした。
 頭皮針療法は今まさに発展段階にあり,始まったばかりであって,その作用原理や臨床治療などの面で,今後一層の探索と研究がなされなければならない。したがって本書の出版が引き金となって西洋医,中医,中西医結合医及び医療・教育・科学研究にたずさわる人々が臨床や教育の現場でこれを参考とし,また応用してくださるようになれば幸いである。さらには今後それぞれが協力しあって頭皮針療法を研究し,これをしっかりとした体系をもった確固とした専門療法として確立させて,人類のための医療事業として役立てることができるようになることを,心から願っている次第である。

朱 明 清・彭 芝 芸
1989年1月 中国・北京にて